Doug Thompson からヘレンの速記ノート・High Resolution jpg ファイルの収録されたDVDが届きました。サービスで新しいバージョンのScholar's Toolbox も付けていただきました。
お礼をかねてここで指摘した正誤表の内で有意義だと思われるものを選択してメールしました。先に送ったメールでの正誤リストで採用してくれたものはWebやこの新しいToolbox DVD で修正していただけたようです。
Doug が言うには、印刷用のマークアップ・コードで下線の一重線はイタリック体、二重線はALL CAPS(単語の文字をすべて大文字で表した強調)で活字を組むことを示すそうです。Urtext ではタイプライターで下線を引くのは大変手間がかかるので(タイプライターでも下線が引けるのですね。知りませんでした。)ノートの下線をALL CAPS にしています。しかし、おそらくイタリック体で強調することを意図していたのではないかということです。
Urtext の中に手書きのアンダーラインと定規で引いたような真っ直ぐなアンダーラインがありますが、真っ直ぐの方は定規ではなくタイプライター自体で打っているのですね。Urtext のALL CAPS とアンダーラインの強調について、Urtext とノートを比較しながら、こんなイメージが浮かび上がって来ました。
最初にノートをタイプライターで写したとき、ヘレンが読み上げて、ビルがタイプしたと思いますが、おそらく最初の原稿は強調をALL CAPSで写していなかったのではないでしょうか。強調する語句が頻繁に出てくるので、強調の指示を入れながら読み上げるのは非常に能率が悪く時間がかかるからです。
聴いてタイピングしたというのは同じ発音の別の語句をタイプしているミスが散見されることなどから分かります。there と their の間違いや、面白いところでは聖書でイエスが「わたしのくびきは負いやすく、わたしの荷は軽い」というところの「くびき」がYoke でなく、同じ発音のYolk[黄身・卵黄]になっているのがありました。[T 5 D 13.] もちろんノートでは正しく綴られています。
おそらく原稿が一段落したとき(例えば段落ごととか一頁ごと)まとめて強調する単語を読み上げてビルが手書きで指示を書き込んだのでしょう。そしてまたタイピングに戻って同じ手順を繰り返したと思います。ビルがヘレンの声を聞いて強調する言葉をチェックしたと思われるのは、同じ段落で別の場所にある似た単語が、間違って強調されている誤りがあるからです。目でノートを見ていれば別の場所の単語と間違う訳がありません。(例えばT 4 E 21. を参照。ALL CAPS のknowing[ノートで強調無し]とアンダーラインのknow[ノートで強調されている] に注目して下さい。 )
その後、セカンド・リタイピングの時、最初の原稿の手書きでチェックした強調をALL CAPSにして写したのが現在のUrtext でしょう。タイプライターで引いたアンダーライン付きの言葉はノートと照らし合わせながら再タイピングするときに強調の脱落に気がついた箇所で、タイピング後にチェックしたときに気がついたのが手書きのアンダーラインという訳です。Urtext でアンダーラインのところを見るとノートのアンダーラインとほとんど一致するので、後になって恣意的に強調点を変えたのではなく、ノートにあって脱落したところを補っているのがよくわかります。Urtext の三種類の強調にタイピング時の様子が透けて見えているという説ですがどうでしょうか。
Urtext とノートを比較してもう一つ気がついたのはUrtext のパラグラフ分けがノートに忠実であることです。HLC と比べると微妙にUrtext のパラグラフ分けは違っていますが、Urtext でパラグラフが分かれて字下げしているところや手書きでUrtext にパラグラフ分けを指示する記号(P の縦棒が2重線になっているもの)はほとんどノートに対応します。ノートを見るまではUrtext のパラグラフ分けをどの程度信用して良いのか分かりませんでした。果たして手書きのパラグラフ分けは誰が書き入れたのかも分からないし、ノートと照らし合わせているのか、それとも自分の考えで分けているのかも分からないと…。しかし恣意的に分けていないことが明らかとなりました。
ヘレンは二度Urtext をリタイピングしたといわれていますが(ワプニクの証言による)、タイプ原稿をみると明らかに二種類のタイプライターが使われているので、Doug の説では二度全体をリタイピングしたのではなく、前半と後半を二回に分けてリタイピングを行い、全体としては一度のリタイピングであった可能性もあるということです。
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