2011年10月5日水曜日

前田専学のシャンカラに関する著作について

今日、前田専学の “A THOUSAND TEACHING: The Upadeśasāhasrī of Sankara” が届きました。実はサンスクリット原典の校訂本 “Sankara's Upadeśasāhasrī” と間違えて注文したもの。現在校訂本を注文中です。こちらの方は校訂テキストと英訳の二巻セットです。AbeBooksで検索すると一番安くてインドからの送料込みで2650円ぐらい。(ちなみに英訳本は古書で1000円未満で購入)。

購入のきっかけはアシュターヴァクラ・ギーターに付託[錯覚、superimposition]の例として第2章9節に真珠母と銀、縄と蛇、太陽光と[蜃気楼の]水が挙げられていますが、トーマス・バイロンの訳註に世界の幻影的性質を示す不二一元論の定番のたとえであると書かれていました。岩波文庫本『ウパデーシャ・サーハスリー』で確認すると、三つとも見つけることができましたが、どういう言葉使いをしているのか原典で確認したくてネット上のサンスクリットテキストで確認していたら、多くの誤植・脱落を発見して正確なテキストが欲しくなったためです。

最初に前田専学校訂のサンスクリット原典をitransで転写したものと、それから生成されたデーヴァナーガリー文字のPDFで見ていたのですが、散文編の第2章に脱落があるのを見つけました。これは散文編だけのPDFがあったので補うことができました。次に、itrans で~Ngがすべて~ng になっているのを検索して一つ一つつぶしていきました。

そうこうしているうちに韻文編の第17章のナンバリングがずれているのに気づきました。どこかで番号をつけ間違えたのだと思い、インドで出版されたシャンカラの全集や英訳と比較していたら、本来89詩節なければならないのに、88しかありません。原典の17章の第24詩節が欠落していたのでした。

この24詩節目がどこかに転写されていないか探したのですが見つからないので、シャンカラの全集と英訳本のPDFのデーヴァナーガリー文字を解読していくことにしました。サンスクリット文法は独学しようとして何度も挫折し、結局、涌井和著『般若心経を梵語原典で読んでみる』しかやり遂げることができなかったぐらいの学力ですので複合文字にてこずりましたが、次のようになりました。


manasashcendriyANAM ca hyaikAgryaM paramaM tapaH |
tajjyAyaH sarvadharmebhyaH sa dharmaH para ucyate ||
(itransですがchをcで転写しています。 )
これをソフト的にデーヴァナーガリー文字に変換するとこうなります。

मनसश्चेन्द्रियाणां ह्यैकाग्र्यं परमं तपः।

तज्ज्यायः सर्वधर्मेभ्यः स धर्मः पर उच्यते॥

Unicode iast で転写するとこう。

manasaścendriyāṇā ca hyaikāgrya parama tapaḥ |
tajjyāyaḥ sarvadharmebhyaḥ sa dharmaḥ para ucyate ||
 
これ実はマハーバーラタの第12巻 242,4 の引用です。

英訳
The attainment of the one-pointedness of the mind and the senses is the best of austerities[tapas].
It is superior to all religious duties and all other austerities.


邦訳
「無価値な対象から心と五感を遠ざけることは、最高の苦行である。それはあらゆる務めの中で最高のものである。」山際素男訳『マハーバーラタ』第7巻91ページ

 さて、これで欠文を補うことができたと、ほっと一息入れたとき、気になって岩波文庫本を見ると17章は88詩節しかありません。24詩節を見るとやはり欠落しています。ひょっとしてこれは校訂作業の中で、意図的に削除されたのでしょうか。今日届いた英訳本を見てみても何のコメントも見つけられませんでした。

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